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ルイは、後退りした。
完全に怯えていたのが、自分でもはっきりと感じられた。
その怯え方はまるで、自分が服を剥いで、叩き、踏み付け、痛め付けていた子供達のようだと思った。
「……イイ顔するね、蝶々ちゃん」
一足踏み切り、ルイは勢い良く逃げた。無理。無理だ。助けて。怖い。あんなのに自分がいいようにされるなんて。同類だから分かる。この怖さは……。
「ッあ゙ぁ!!!はあっ、はぁっ、あぁ……」
家の前まで、全速力で走った。
安堵したルイは、ただ一つのことを想った。
(ローズ……)
虚しい。切ない。このやりきれなさは、どういうことだろう……。
男性の話の中で、一箇所、明らかに自分の心臓が軽く浮くような感覚を覚えたところがあった。
ローズが自分に現を抜かしている。
あの短いやり取りで、ローズも自分のことが気になったのだ。そう思うと、ルイは自分でも信じられないくらい、喜びの感情が胸に溢れ出した。
あれほどの恐怖を感じた後にも関わらず、ルイは笑みが零れた。
そして、一つの使命感に駆られる。
(……ローズ)
あの男性に全てを白状させられ、全てをいいようにされているのだろうか。
あの男性に愛されて……。
(救い出すんだ。俺が……)
ルイは、ただの自分の理想の媒介だったローズを、少しだけリアルに感じることが出来た気がした。
そしてそれから毎晩、例の本屋の曲がり角で立ち続けた。
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