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ローズに、苗字はなかった。両親が誰か知らなかったし、誰も両親にはなってくれなかったのだ。
産まれた時からずっとこの『家』である店に住んで、『教育』を受けてきた。
それは有り体に言えば金持ちに自分の体を売る、ということだったが、この店に来る客の嗜好は、大分偏ったものだった。
拷問で体の形を変えさせる、薬を使い体に異常を及ぼす、そういった非人道的なことが毎日のように行われていた。
「痛いっ!痛い痛い痛い痛いねぇ~~~~~~」
ローズが目を向けると、甲高い愉しそうな声でそうはしゃぐ、一人の若い男が居た。
歳は28から30ほどで、細身のスーツ姿、真っ白に染めた髪に、ピアスを沢山開けていた。
今日は部屋の中央のガラス板の中で、8歳ほどの少女が三人の男に痛め付けられていた。
それを、4~50人ほどの客が、テーブルの上のお菓子―クッキーや、チョコレートバーなど、案外庶民的なもの―を摘んだり、アルコールを飲んだり、会話をしたりして楽しみながら眺める。
先程の白髪の男は、その客の中の一人かと思われた。手にウォッカを持ち興奮した様子で、絶えず何かを喋っていた。
「あーはぁ、可哀相にあの赤ちゃん、もうまともに歩けないよぉ」
客は誰一人として表情を曇らせることなく、その光景に満足する。
ローズはこのガラス板の中に入ったのは小さい頃一度だけで、あとは一対一で客を相手にする仕事しかしたことがなかった。
理由は、ローズが、この店のオーナーであるジョゼフのお気に入りだったから。
他の『奴隷』達ほど酷い仕打ちは、日常的には受けずに済んだ。
今日は下半身に何も付けず、裸足で、黒のタンクトップ一枚を身に付けて首輪を嵌めた格好で、部屋の中をうろうろするのが仕事だ。
一応、客に食べ物や飲み物を勧めなければいけないのだが、本来の仕事は、自分を買ってくれる相手を見つけること。
なるべく金持ちそうな歳をとった人間を見つけ、媚びを売る。
「おや」
一人の中年の女が、ローズの下半身を見つめ、そう言った。
「お前は男?女?どっちだ」
中年の女に聞かれ、ローズは黙った。
その女はニヤつきながらローズのお尻を掴み、自分へ引き寄せようとした。
「困りますよ、お客さん。触るのは代金を払ってからでないと」
すかさずジョゼフが、そうフォローに入る。
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