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「えぇ?何だ、そうなの?こんな格好してるくせに。私は眺めるだけじゃ退屈なんだよ」
「今夜この子を買われますか?800ポンドですが」
「……やめておく」
ローズの母親は自分と同じこの店で育ったらしく、自分を産んで亡くなった。父親は不明。
ローズは、もう様々な感情が麻痺していた。
他の『奴隷』達が痛め付けられているのを見ても何も感じないし、自分もジョゼフの言うままに行動した。
しかし、ふと、この場を抜け出して近くを散歩していた時。
一人の少年に出会った。
(……名前)
ローズはその少年の名前を聞き損ねたことに気付く。
しかしこれ以上考えるのをやめるべきだ、と思った。
何故なら、少年に出会って帰ってきた夜、様子が変だからとジョゼフに厳しくせっかんされたからだった。
(あんなに美しい男は、見たことがない)
ローズは、いけないと思っているのに、この二週間ほどその少年のイメージが頭から離れなかった。
「ローズ。ちょっと来い」
ジョゼフに呼ばれ、ローズはジョゼフが耳打ちできるくらい近くに寄った。
「お前がこないだ言ってた男に、会ったぞ」
「!?」
ローズは胸が高鳴った。
どうして?ジョゼフには、本屋で会った綺麗な顔の少年としか伝えていない。どうして本人だと分かる?
その少年が、また同じ場所で現れたんじゃないか?それでジョゼフが探りを入れたんじゃ?
ああ、私のことを、天使と呼んだ。
彼はひょっとしたら、私に会いに来てくれたのでは?
「お前に近付くなって脅かしてやったら、走って逃げてったよ。やめとけ、あんな男は」
ジョゼフは、安心しきっているように、ローズにそれだけ伝えた。
(……彼はまた、私に会いに来る)
ローズは確信していた。
それはローズの勘でしかなかったが、何故かローズには、その少年と最初に顔を見合わせた時から、少年が自分に夢中になることが分かっていた。
(彼と会おう。ただ会えればいい、後はもう分からない)
ガラス板の中では少女の泣き叫ぶ声がし、白髪の男は笑っていた。中年の女はつまらなさそうに、しかし帰るそぶりも見せず、クッキーを皿に運んでいた。
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