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明くる日の朝、エリザベスはスープを作っていた。この姉弟は生野菜を嫌ったので、エリザベスはいつも自分達の栄養の為に、スープかソテーで野菜を摂るようにしていた。
ルイは食卓で本を読んでいた。
「ルイ」
エリザベスが呼んでも、ルイは返事をしなかった。かと言ってページをめくる音もしない。
「ルイ。お皿を取って」
しばらく間が空いてから、気付いたようにルイが本を横に置いた。
「ん?何?」
エリザベスは溜め息をついた。
弟の様子が、どうもおかしい。
「何かあったの」
エリザベスが聞くと、ルイは慌てて本をマガジンラックにしまった。
「ごめんごめん。本に夢中になってて」
エリザベスは首を傾げた。
そして自分で皿を取り、スープを注ぎながら話した。
「今日は、帰り何時になりそう?」
「……えーと、11時くらいかな」
「昨日より遅いのね」
ルイは黙ってエリザベスから皿を受け取り、食べ始めた。
「ねえ」
沈黙に耐え兼ねてエリザベスが口を開いた。
「今日はチョコレートケーキがあるから、好きな時に食べてね」
ルイの仕事は、昼の12時から始まり、終わるのは日によってまちまちだ。中年の男性達と一緒に、庭などに置くエクステリアを運んでいる。
客と取引や会話をするのは上の人達がして、ルイの仕事はただ運ぶだけだ。
(この石畳の色、いいな)
ルイはロンドンの古めかしい平和を愛していたし、人と人が関わって悪い方向に行くことを憎んでいた。だからこの仕事は、ルイにとって調度良かった。
自分の思考は自分だけのものであり、誰にも掻き回されたくはない。
ルイは傍目から見ると今時の呑気な若者だったが、実際は神経質な芸術家のようだった。
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