11人が本棚に入れています
本棚に追加
辺りがもうどっぷりと暗く、体がくたくたになった頃、ルイはポケットにしまっている懐中時計を見た。……9時半。
いつもなら、この時間は後回し出来る仕事をのんびりやっていたのだが、今日は残りを明日に回して帰ることにした。
(……半月)
ルイは月が好きだった。
孤独なルイは、どこまでも付いて来てくれる月に、最近特に安心感を覚えるようになっていた。
(……つまりそうか、精神的な、問題なんだ……)
自分がさまよう理由。
ルイはその事について、静かに考える。
精神的なモノを、肉体に込め、吐き出す。
受け手はただソレを総て受け取り、喜びに変える。
羞恥や、背徳感、痛み、悲しみ、自分の考えとの矛盾による葛藤など……。それらは、果たして必要なものなのだろうか。
(ローズ。君は)
風が勢い良く吹いた。
恐ろしく冷たい風に、ルイは眉をひそめた。
(ローズ……女なの?男?どんな躯をしている?
異性との経験はない?俺が触れると君はどう感じる?
君はどう反応する?君は何を考えて……?)
実際、今のルイにとって、ローズはただの媒介だった。
出会ってまだ外見的なことしか知らない、次会えるかも分からない。自分の葛藤を都合良く詰められる、媒介。
「……」
ルイは目が合った。
昨日ローズと出会った本屋の角で、まるで影のように佇む、一人の大柄の男性と。
.
最初のコメントを投稿しよう!