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「そして、明星さまも……」
心を澄まして、私は見つめました。私たち一族の……護り星を。
それは、夜明け前の空に、ひときわ高く輝き続けるお星様。
『明星さま』と、言い伝えで呼ばれる、私たち一族の古い古いお友達です。
真実を明らかにする、厳しく凍える光、誰をも寄せ付けない、白銀の冴える光は、
とても清らかで誇り高く……でも……どこか寂しそうで……
小さな頃から、ずっと私は、仄かな憧れと、微かな胸の高まりを感じながら、何時までも眺めていたものでした。
多分、そんなにも星に惹かれたのは、生まれつき私に備わっていた、不思議な力の所為なのでしょう。
星の流れを読んで、この先起こる事を占うことが、私には出来たのです。
兄さまによると、それは、魔法よりも珍しい力で、私たちな血筋に良く現れる、とてもとても誇らしい証なのだそうです。
確かに、この先起こる事が少しでも分かるのは、素晴らしい事でしたが……同時に……
「……っ」
星々が僅かにまたたき、私は、ハッと息を呑みました。
運命の時が訪れた事を告げています。
「お願いします。どうか、私の願いを聞き届けて下さい……」
ずっと見つめ続けてきた、たった一つのお星様に祈ります。
「この危難を乗り越える強い意志を……何が起ころうとも、恐れず、怯えずに、それを成し遂げる勇気を……私に与えて下さい」
手をぎゅっと、握りしめます。小さくて、ひんやりとした鋼がそこに有ります。
「皆に訪れる悲しい運命を、密やかに剥ぎ取ってしまいたいのです……私だけで終わりにしたいのです。だから…どうか…お願いします。明星様」
私は何度も繰り返しお祈りします。
でも、お星様は、とても遠く、高い所に在って……
私の声は届きそうにありません。
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