101人が本棚に入れています
本棚に追加
『何だ今の球??』
一塁ベースを走り抜けたあと田山は立ち尽くし考えた。確かにストレートだったはず。スライダーにしては前の球と変化のタイミングも変化量もまったく違うものだったし。
ベンチに帰っても田山の顔は晴れなかった。
｢珍しいな、お前がうち損じるなんて。｣
田沢監督が口を開く。
｢すいません。ストレートを狙ったんですけどね。｣
｢ストレートだっただろ??｣
｢いえ、確かに少し変化したんです。僕にもよくわかりませんが。｣
｢魔球ってやつか。まったく楓くんは面白いな。｣
｢あのピッチャー知ってるんですか??｣
｢あぁ私の息子の同級生でね、楓くんのお父さんは私の同級生なんだ。｣
｢そうなんですか･･･｣
一方庄栄ベンチでは･･･
｢楓、田山に投げた最後の球あれ何投げた??｣
周都が尋ねる。
｢あぁストレート投げたんだけど、縫い目にうまく指が引っ掛からなくてな。失投だったんだけど打ち損じてくれてよかったよ。｣
｢あれは打ち損じじゃないと思うぞ。確かに少しだけ変化したんだ。変化したというより動いたって感じだった。｣
｢周都の言う通りだ。｣
｢監督!!｣
監督は続ける。
｢楓、周都あれは変化球だ。偶然が生んだ球だがな。名前は二人とも聞いたことくらいあるだろう。｣
｢何なんですか??｣
｢あれはムービングファストボールと言って、ストレートの軌道で打者の手前で不規則に動く。だから凡打を生みやすいんだ。｣
｢すげーな楓!!魔球じゃん!!｣
｢でもたまたまだからな俺には投げれないよ。｣
｢いやそんな事もないかもしれん。｣
監督がまた話しに入る。
｢ムービングファストボールは楓の父雄斗の得意球だったんだ。今でもあの球の感触は覚えてる。｣
｢父さんの得意な球か･･･｣
｢どうだ楓、覚えてみるか。｣
｢少し考えてみます。｣
そして最終回のマウンドに向かった。
｢ほんとにすごいですね。楓くんは。｣
｢そうだな。俺が思うよりも大きな器の持ち主かもしれない。｣
そして･･･
｢ゲームセット!!６ー１で庄栄学院の勝ちです。礼!!｣
｢ありがとうございました!!｣
｢よっしゃ!!初勝利!!｣
｢みんなよくやった。いい試合だったな。今日は練習はここまでだ。明日から本格的に練習に入る。グラウンド整備をして夕食の７時までは自由行動だ。では解散!!｣
｢ありがとうございました!!｣
そして楓達は宿舎に戻った。
最初のコメントを投稿しよう！