第2章 分岐点

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3年生はみんな泣いていた。 そりゃあ中学最後の大会がこんなつまらない結果で負けてしまったのだから。悔しくて泣くのもわかる。 俺は怖かった。敗因は完全に俺だ。先輩達になに言われるかわからない。 そんな俺を救ってくれたのはエースの木田先輩だった。 木田先輩はベンチで泣き崩れていた俺の横に座り、静かに口を開いた。 「楓、お前のせいじゃないぞ。確かにお前のピッチングは内容だけ見れば最悪だ。責められても不思議じゃない。でもな、野球は団体スポーツなんだ。敗因はどんな結果でもみんなの責任だ。」 俺は泣くことしかできなかった。それでも俺は謝らなければいけないと思った。でも涙が止まらなかった。 先輩は優しく俺の肩を抱きながら続けた。 「お前はまだピッチャー始めて数ヶ月だ。言い換えればまだピッチャーとしては初心者みたいなもんなんだ。誰だって失敗して強くなるんだ。それにお前は逃げなかっただろ?あの状況で一番つらいのは間違いなくお前だ。自分のピッチングだけじゃない。先輩達に迷惑かけたくないっていう気持ちがあったはずだ。でもお前はゲームセットになるまで逃げなかったんだ。他のやつに任せることはしなかった。お前はこの試合で負けたことで確実に大きくなれる。お前はこれで腐るほど弱くないだろ?」 気がつけば他の先輩達も俺を気遣ってくれた。文句の一つも言うことなく、みんな口を揃えて言ってくれた。 一番辛かったのはお前だ。これをバネに大きくなれ。 なんて素晴らしい先輩なんだろう。俺はまた野球が好きなった気がする。俺は涙をこらえ、やっと一言が言えた。 「みなさん・・・すいま・・せん・・あり・・がとうござ・・います。」 顔をあげるとみんな笑顔だった。 子供は無邪気だ。綺麗ごとだと今なら思えることでも本気で口にすることができる。そして後輩を、友達を絶望の淵から救いだす。 でも、大人は残酷だった。 応援席で見ていた大人達は違ったんだ。 あのまま木田くんが投げてたら勝ってただろうとか、あの1年生には荷が重すぎただとか。 そしてもっとも聞きたくなかった言葉・・・藤堂雄斗の息子なのに。 それが俺には一番重かったんだ・・・
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