プロローグ -女-

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(……その通りだよ。 あたしには、あんたしかいない。 でも、あんたにも、あたししかいないと思ってた。 だからこそ、あたしは立っていられたんだよ……) 気づいた時には、女は家を飛び出していた。 築40年の、狭いボロアパート。 薄明かりに照らされた鉄の階段を、サンダルで駆け降りる。 「このクソアマ!! 待ちやがれ! ぶっ殺すぞてめぇっ!!」 暴力男が後を追って出てきて、大声をだす。 こんな夜更けに、近所迷惑もいいところだ。 酒のせいでもつれる足は、女を追いかけられるだけの働きを成さなかった。 「待てよっ!! 帰って来いよっ!!」 無我夢中で走る女には、その声はもはや 届かなかった……。
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