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「この部分はこっちの式を使う。なんでかっていうと――」 彼の説明は悔しいぐらいに分かりやすかった。 「永崎せ――」 「亮太」 「りょ、亮太くんは、化学得意なんですね」 私の不慣れな呼び方を聞いて、彼はまた少し微笑む。 それは初めて会った時のあの優しい微笑みで……別の誰かに似ている気がした。 だけどそれは春の霞のようにぼんやりとしていて、掴もうとすると花びらのように逃げていく。 誰に似ているんだろう…… この時はまだ、彼の掴みどころのない表情の変化に戸惑うことしかできなかった。
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