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「あ、紗奈、ご苦労さん」 「いえ……今日もダメでした」 先生はそれを聞いて笑っている。 「紗奈のせいじゃないよ。毎年こんなもんだから気にすんな」 それから先生は、ちょっとだけ廊下を見渡して私の右手をそっと引いた。 「ご褒美にコーヒー入れてあげる」 なんだか少し久しぶりにこの部屋に入る気がした。 やっぱりここは私にとって特別な場所で、最初は嫌いだった色んなものが混ざった匂いも、今は落ち着く匂いだと感じる。 先生がコーヒーの袋を開けると、それだけで私の優越感は満たされていく。 流し台に立つ先生の後姿が愛しくて、私はその背中におでこを寄せた。
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