5人が本棚に入れています
本棚に追加
運命なんかいらない
命なんかいらない
あなたが笑ってくれれば
それだけで構わないのに
~秘蜜~
ぼんやりと目を開けると目の前には人がたくさんいた。
高い場所にいるのか自分が人を見下ろすような形になっている。
罵声を浴び、石を投げられている自分。
ああ、思い出した。小さく呟く。
彼女は処刑台の上にいるのだ。
「ああ…またこの夢か……」
すぐさま理解してしまう自分の夢。
今まで幾度となく見てきたためか未来を理解していた。
それは、自分の過去。
今の世界に来る前に起こった現実。
思い出したくはないのだが毎日夢となって出てきていた。
最初はある人物との出会い。
炎を操る能力があるせいで捨てられていたハヤトを青年が拾った。
その人物のお陰で立派な遊騎士にもなれた。
だが、結局能力は危険だと認識され、今こうして処分されようとしている。
「何か、言い残すことはないか?」
処刑執行人が話しかけてくる。復讐を防止しているらしく
その人物の顔は布切れ一枚で覆われており見ることができない。
目の部分だけが開いているためかとても気持ち悪い。
言い残すことなどたくさんある。
人間への恨みつらみ、依頼人への文句。そしてなにより…
拾ってくれた人物への感謝と、抱いてはいけない感情。
伝えたいのに伝えられないもどかしさ。
全てが彼女の中を駆け巡った。
だが、いつもそうだ。言うことなど叶わない。
「ありません。」
会話も聞きなれたもの。変わり映えもなく首を横に振った。
そして再び人間を見下ろすようにする。
だが、今回は一部だけ違っていた。
視界を下げた場所には見慣れた人物が立っていたのだ。
申し訳なさそうな表情をしながらこちらを見ている。
「ハク…さま…」
純白とも言っていいほどの白い髪。菫色の瞳。人より幾分か白い肌。
自分を拾ってくれた恩人であり想い人。
目が離せなくなっていることがわかったらしく
青年は口を大きく、ゆっくり開いた。
《助けられなくて、ごめんね》
ああ…これは願望なんだ。
自分が望んでいること。
それでも、わかっていたとしても、
涙が溢れて止まらなくなった。
12時の鐘が鳴り響く。コツコツと執行人の足音が響く。
まだ、死にたくない……
最初のコメントを投稿しよう!