秘蜜

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森の中が静寂に包まれた。 誰もがきっと自分の目を疑っただろう。 消えるはずであった堕天使は、目の前にいるのだから。 最初に口を開いたのは、堕天使の部下だった。 「白蘭様…!ご無事ですか?」 桔梗が駆けよると、白蘭はただ茫然としていた。 彼の足もとに残っていたのは、 かつて彼が一人の少女に送った指輪。 本物は渡せないけれど、君が本当の雷の守護者だと 伝えた時に与えた、レプリカ。 「いったい、何が起こったの……?」 「…ハヤトが、白蘭様を庇いました。」 彼の言葉が辛く、のしかかった。 落ちている指輪を拾い上げしっかりと握り締める。 炎ではないぬくもりが、指輪から伝わってきた。 「最初から僕が消えることくらい、わかってたはずなのにね。 ゲームの先読みして、ルールそっちのけで変えちゃったんだ。 でも、ルールは守らなきゃいけないよね、ハヤト。」 それは昨夜見た夢。神と名乗った人物との契約。 《ある馬鹿がお前の身代わりになって死ぬ。 それは、この世界の木に負担をかける。 わかってんだろ?それくらい。 ゲームの敗者には死が不可欠になる。 お前の未来は、お前が戻せ。》 「今、返してあげるからね、君の未来を。」 漆黒で歪な形であった翼が純白となる。 それはまるで、天使の翼のようだった。 彼が光で包まれていく。 それは先程作られていた大空のオーラより とてもとても、大きなものだった。
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