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よほど驚いた顔を優花はしたのだろう、妙子は優花の様子をちょっと見て、少しだけ笑った。
「優花、当時は大変な時代やったんよ。
おじいちゃんは、このハガキを弄られんまま家族に出したかったんや。
やからな、きっと道にわざと落として、一か八かの賭けをしはったんやな。
あんな時代やったけど、親切な人が居やはったんや。
ハガキを拾うて、届けてくれはった人が居やはったんよ。
ほうやで、こうしてこのハガキが消印もなしにここにあるんやで」
祖母の話は、優花の思考をうんと過去に飛ばし、日本の遠い地まで広げた。
過去、これを書いた祖父の気持ち。
このハガキを拾った人の気持ち……
優花は、きっとこのハガキを拾った人は、祖父の気持ちが分かったんだと思った。
落とし物として駐在所にでも届けられていたら、もしかしたらこのハガキは。
たった一枚のハガキなのに、優花には何万ギガバイトのUSBメモリーよりもたくさんの情報や人の思いが詰まっているような気がして、それを祖母からそっと返された時は、両手で大切に受けとった。
このハガキを、伯母、父、叔母もきっと読んだのだ。
祖父そのものの命にも似た尊さが、このハガキにはある。
優花は、もう一度そのハガキを鏡台にしまい込んだ。
鏡台は、当時を生きた人々の日々を、壊さないように守るタイムカプセルのように見えた。
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