11人が本棚に入れています
本棚に追加
――いらない。
いらない。
いらない……。
彼は事あるごとに、愛してると軽々、口にする。
私は晃のケータイに受信した他の女からのメールを表示する。そして、テーブルの上に投げ出した。
ケータイはピタリと晃の目の前で止まる。
彼は、チラリと目をやるだけで、ケータイに触れようとしない。
「みさきゴメン……。愛してるから、許して」
椅子に座ったまま顔だけ、私の方を向き、上目遣いに、仁王立ちする私を眺める。
これで、何度目?何回繰り返せば、この男は反省するんだろう。
私は悲しくなる。だって、私はこんなヤツでも、大好きだから。
出会いは大学のオールラウンドサークル。バーベキューしたり、ボーリングしたり、月一で集まって遊ぶだけのサークル。
ある日、私は当時付き合ってた彼に振られた。辛くて、辛くて、遊ぶ気持ちにならず、サークルに連絡せずに活動を休んで、家でぼーっとこたつに入って過ごしていた。
ピーンポーンと呼び鈴がなる。私は面倒くさく思いながらも、玄関まで駆け足で向かう。片目をつぶり、覗き穴からそっと外を窺う。
ニッコリと大きな口を開けて、晃はこちらを見つめていた。
「みっさきー!いるんだろ?酒持ってきたから、一緒にのもうぜ」
二人でこたつに入り、くだらない話で笑いながら、缶チューハイを何本も空けた。
私は目の前がぼやけてきた。楽しいはずなのに、涙が頬を伝う。
それを見て、晃も同じように、悲しい顔をする。そして、そっと私の背中に手を回し、撫でてくれた。
「俺、みさきが好きだよ。俺のこと好きになってくれたら、絶対こんな思いさせないから」
私は晃の顔を見る。晃も真っすぐ私を見つめた。
言葉はなく、辺りはしんとして、晃の吐息だけが耳に残る……。ゆっくりまぶたを閉じる。そして、晃の唇が私の唇に重なる……。
「愛してるなんて言わないでよ!」
私は膝を床に着いて、あの時と同じように泣く。こうすれば、きっとまた、晃の愛を感じられるから。
言葉なんかいらない。晃の本当の心が、愛がほしい。
あの時くれたみたいに……。
最初のコメントを投稿しよう!