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それから三日後の昼間、お隣の噂好きの夫人が僕の家に駆け込んできた。
「大変だよ!」
「どうしたんですか」
「海に王子様の死体が上がった!」
噂好きの夫人に引っ張られるように、僕は浜辺に向かった。
大勢の人だかりの隙間から、血の気の失せた王子様の足だけが見えた。
「おめでとう」
僕は、誰にも気付かれないように呟いた。
十歳の時、よく僕の家の近くに来ていた十歳年上の花売り娘は、それはそれは美しい娘だった。
僕は話したいが為によく花を買い、時にはプレゼントを渡し、その度に笑う花売り娘に恋をしていた。
ところが、花売り娘はある日、王妃様になってしまった。
もう花を買う事も、話す事も、プレゼントを渡す事も。
会う事すら出来なくなって、僕は悔しくて泣いたのだ。
あの娘はだいぶ年上だし、お前と恋仲になる事なんて始めっから無かっただろうさ。
周りの大人はそう言って、僕を笑ったり慰めたりした。
そんな言葉は無意味だった。
僕には初恋で、一度だけの恋だったのだ。
噂好きの夫人は、まだ知らない人を探しに町へ戻った。
僕は、まだ沢山ある、真珠を売った金で、何か美味しいものでも食べる事にした。
この三日で美味しいものは随分食べたが、今から食べる美味しいものは、きっと一番美味しく感じられるだろう。
王子様の足には、水晶色の鱗が一枚張り付いていた。
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