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「なんでまた、王子様を」
「聞いてくれる?」
人魚は、まるで歌でも歌うように、こんな話をした。
船上パーティーの会場となった船が、岩に座礁して沈没した。
人魚はその時、偶然にも、沈む船の下の海にいた。
水の中をゆらゆらと落ちて来る銀細工の食器や、宝飾品、見た事も無い食べ物の残骸、人間を見物していると、そこに王子様が落ちてきた。
「一目惚れだったわ」
胸の前で手を組み、人魚は夢を見ているような顔をした。
「だから助けたの。私達、普段はあまり人間と関わらないのだけど。だって、人間は沢山落ちてきたけど、その中の誰よりも美しかったんだもの」
王子様を陸にあげ、美しい顔を見ていると、気が付いた王子様がうっすら目を開けた。
「私を助けたのは君か、と聞かれたわ。ええそうよ、と言ったら、ありがとう、と言ってまた寝ちゃった」
そこに、人間の娘が通り掛かった。それで慌てて海に潜った。
本来、人魚はあまり人間に姿を見せない。
美味で不老不死の力を持つ、人魚の肉を狙った乱獲の餌食になる人魚が多かったからだ。
何十年も前に人魚漁は禁止されたが、それでもまだ人魚は、人間を恐れる者ばかりらしい。
人間の十年は人魚達の一年なので、人魚漁に怯え暮らした経験のある人魚が、まだ沢山いるのだ。
「どうなるかしらと思って、岩に隠れて見ていたの。そうしたら、人間の娘はとっても慌てた顔をして、他の人間を沢山呼んだわ。王子様は運ばれて、それっきり」
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