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ここまで聞いて、僕はふと思い当たった。
その昔、まだ王子様だった王様は、沈没した船から海に落ち、陸に流れついた。
放っておいたらそのまま死んでいたかも知れない所を、美しい花売り娘に助けられた。
王様はいたく感激し、花売り娘と結婚した。
十五年前、僕が十歳の頃に行われた結婚式で、王様自身が国民に向けて自慢げに話した事だ。
これは僕の国では有名な美談で、人に優しく生きなさい、そうすれば、花売り娘でも王妃様になれるのだ、と全ての親が子に語って聞かせる話になっている。
「……王子様助けたの、いつの話」
尋ねると、人魚は小首を傾げて「一年半くらい前かしら」と答えた。
人間の時間で十五年ほど前になる。
つまり、人魚が言う王子様は今の王様で、通り掛かった花売り娘というのは、王妃様の事なのだ。
しかし王様は、人魚に助けられたなど、一言も言っていない。
「腹が立つのはそこなのよ」
人魚は頬を膨らませた。
「あの人を助けたのは、私なのよ。私が陸にあげなければ、そのまま鮫のご飯になっていたくせに。それなのに、ちっとも覚えていないんだもの。花売り娘は、その後、たまたま見付けただけなのに」
だから、悲しませてやろうと思って。
人魚は言って、無邪気な笑みを浮かべた。
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