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人魚は王様を殺す事で、王妃様に復讐しようとでも考えているのだろう。
「怖いなあ」
僕が呟くと、人魚は「当然の事よ」と言い放つ。
「でも、王様は海には来ないよ。昔はよく泳いだらしいけど、船が沈没してからは、怖くなって海に近付かない。残念だったね。王子様の方は、たまに来ているみたいだけど」
「知ってるわ」
少し大きな波が、岩に砕ける。白い泡に囲まれて、人魚はまだ笑っている。
「だから言っているじゃない。私が殺したいのは、王子様。今の王様ではなくて、その子供よ」
おばあさまが言ってたの、と人魚は続ける。
人間達が一番恐れ、一番悲しむのは、大切な人を失う事だ、と。
「だから、子供を殺してやるの」
いい考えでしょ、と人魚は胸を張る。
「それじゃあ王様も悲しむじゃないか。折角好きになって助けた人を、悲しませる事になるよ」
「そうよ。だって、当然じゃない? 私は花売り娘だけが憎いんじゃないの。あの恩知らずも同じくらい……いいえ、花売り娘よりも憎いのよ」
だから二人とも悲しませてやろう、という事だろうか。
海色の瞳は、ちっとも悪びれていない。新しい悪戯を思い付いた子供のようだ。
「最近このあたりに王子様が来るみたいだから、待ち伏せしていたの。そこに潜ってきたものだから、間違えちゃったわ」
謝罪というより、間違えた事が悔しい口振りだ。人魚と人間の善悪感は、どうやら少し食い違っている。
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