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頭から肩に移された手が、天音を倒れないように支えてくれた。
「で、でも……」
「顔色……悪い。何もしねーから……。楽なら、暴れんな……」
確かに楽だった。
緊張もあるけれど、疲れた身体を労る行為に素直に言えば癒やされる。
「あ……りがと……」
トクトクとトクトクの間にドンと大きな音が入った。
天音の心臓もつられて一つだけドンと鳴った。
終点が近いのが名残惜しいほど、名も知らない彼の腕の中は安全地帯だ。
最後の最後にガタンと電車が止まるまで、天音は微動だにしなかった。
「着いたな」
扉が開く直前、彼はあっさりと天音から身を引いた。
一緒に降りる。
「ね、ねぇっ!」
「……何?」
「あ、りがとう……」
「……さっきも聞いたし」
ふっ……と緩んだ顔は幼い雰囲気を残していた。
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