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空は広い。
私はいつも天を見上げ、その表情の豊かさに感服する。
いつもの街の、いつもの河川敷、何も変わらない街並みと空が風景として溶け合っている。
美しい。
男は草の上に寝転がり、ぼーっと空を見上げていた。
決して良い天気とは言えない微妙な曇り空、それを男は見上げていた。
何をするわけでもなく、春先の午後2時の空を眺めていた。
「暇ですね……」
Gパンに薄手のジャケット、髪は黒く整った顔立ち。 年齢は20代半ばといった風貌の男だ。
周りから見ると、この不況の波に飲み込まれた失業者にしか見えない。
「この世界も変わらず、この景色も変わらず、この私も変わらない。 極めて普通、それが何故美しいのでしょうか」
ぶつぶつと呟く痛い人、第一印象としてはこのくらいしか分からない。
「ねぇおじちゃん。こんな所で何してるの?」
普通の人なら無視して行くような男に声を掛ける少女が一人。白のワンピースという少し肌寒そうな格好で男の頭の上でしゃがみ、顔を覗き込んでいる。
「やぁ、私は今は空を見てたんだよ。 君は何をしてたのかな?」
「私はね? 迷子になっちゃったの。 気が付いたらここに居て、歩いてたらおじちゃんを見つけたの」
「そうなのか、お母さんとかは?」
「うーん、分かんない」
無垢な笑顔を振り撒く少女。
「そっかー。 じゃあお家とか覚えてる?」
「それも分かんない」
「じゃあおじちゃんが一緒に探してあげよう。 名前を教えてくれるかな?」
「私はね、さくらって言うの。 おじちゃんは?」
「あぁ私は○○○○っていうんだ。 さぁ、さくら。 探しに行こうか」
「うん!」
この男と少女の出会いが、全ての始まりだ。
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