12人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ、兄さんか」
小雪はそう平坦に言って立ち上がる。スカートに付いた土汚れを手で払い落とした。
そして、自分の前に立つブレザーの胸に赤い徽章を付けた、優男風の美貌を持つ青年を見上げる。青年は柔らかに微笑み、
「なんだ、とは酷いね。小雪ちゃん」
「別に。それより兄さんはここで何をやってるの。生徒会の仕事がある筈でしょ」
文句を言うように、小雪は青年を睨む。
「いやあ、ちょっと息抜きにね」
青年はしかし平然とそんな事を言った。
小雪はむう、と頬を膨らませる。昔から飄々としていて、掴み所の無い兄なのだ。
そう、兄なのである。
この背の高い、爽やかな美貌を持つ青年の名は――相模 雪。小雪の二つ歳上の兄で、この学校の生徒会長を務めている男だ。
「そうだ、小雪ちゃんこそこんな所で何やってるのかな。確か、今日は文芸部に見学に行く筈だったよね?」
続いてそんな事を言ってきたので、小雪は返事に困ってしまった。アレを説明しろ、と言うのか。どんな苦行だ。
最初のコメントを投稿しよう!