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兄は力強く歩みを進めていく。しかし、後ろの妹を気遣うように、その歩調は強引なものでは無く、優しげだった。
繋いだ手と手で共有する暖かみは、懐かしく、そして安心出来るものだった。
何時からだろうか。
私が兄から距離を取り始めたのは。
久しぶりに感じた兄の体温に、小雪はそんな疑問を自分に投げかける。
とは言え相模兄妹はとりたてて仲が悪い訳ではない。むしろ、幼い頃は非常に関係は良好で、常に一緒に居た記憶がある。
温和な兄に懐く妹――そんな構図が、小雪が中学に上がるまでは続いていた。
その構図が崩れたきっかけは、別段大した事では無い。周りとの差異に妹が気付いてしまっただけだ。彼女の友達は、皆、兄弟と仲がそれほど良くなかった。
兄弟なんて鬱陶しいだけ。
その意識が、何度かに渡って小雪に刷り込まれた結果、妹の方から距離を置くようになり、兄はそれを受け入れた。
仲の良かった以前のように、じゃれついたり、一緒に登校したり、風呂に入ったりする事はなくなり、間に壁が出来た会話を時々するだけの関係に収まった。
だからこそ、手を繋ぐなんて本当に久しぶりだ。なんてこの人は強いんだろう――小雪は畏敬の念も込めて雪を見上げる。
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