1.失くした存在 思いがけぬ再会 -真人-

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そんな新しい家族の元で、 絶望感を覚えながら、今も母さんの後を追いかけることすら出来ぬまま 生きながらえてしまった。 助かった命だから、無駄にしないようにしよう。 そう思える気持ちと、 どうしてあの時に、僕も母さんと一緒に天国へ行けなかったのかと 神様を憎む気持ち。 この町に来て、あの人が手配してくれた 中学も一度も通うことがないまま卒業を迎え、 今の僕は、あの人が経営する病院と、居場所のない自宅を ただ往復する時間だけが続いた。 そこに……今日から新しく、 この浅間学院が加わるだけ。 『はいっ、新入生の皆さんは今から担任の先生と  共に各クラス教室へと移動してください』 マイク越しに体育館に響く 教頭の声が、僕を退屈な時間から覚醒させる。 気が付けば、 人生の節目になる高校の入学式も終わっていた。 新入生の後ろ側、 保護者席には、我が子の成長を刻み込もうと 皆、正装して参列してる。 その参列者の中に、 僕が一番見届けて欲しかった母さんの姿は 当然ながら見つけられない。 そして、そこには父親だと名乗った あの人の姿も存在しなかった。 体育館から教室へと移動する道すがら、 恥ずかしそうに親だと思われる存在に手を振るクラスメイト達。 そんなクラスメイト達に苛立ちすら感じながら、 僕は指示された席へと着席した。 ただ騒々しいだけのクラスメイト。 耳を塞ぎたい衝動を抑えつつ、 やり過ごす時間。 『たくま まさと』 ふと、耳につくキンキンとした声が 僕を現実に立ち返らせる。 『たくま まさと。  貴方のことでしょ、返事しなさい。  先生の声が聞こえなかったの?  貴方、高校生になって返事すら出来ないの?』
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