春に

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ある日のことだった。 春の暖かな日差しが差し込む病室のなかで、祖母がぽつりと呟いた。 「恵美」 「なぁに、おばあちゃん」 「ちょいとおばあちゃんの昔話を聞いてくれるかい」 「どうしたの、突然」 わたしは笑いながら祖母のベットの脇のパイプ椅子に腰掛ける。 「……この季節になるとね、あの人のことを思い出すんだよ」 「あの人って……?」 祖母のしわくちゃの顔と手には、生きてきた長い長い年月の苦労と感傷が刻まれているようだった。 .
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