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. あの頃と違う台所の景色に、過ぎていった年月の長さを思い知らされる。 そう。 そこには誰もいない。 春子は、いないのだ。 残像だけが目に貼りついたままで――。 「…………誠二郎さん?」 しばらく台所を眺めたまま立っていた誠二郎の背中に、恵美は心配そうに声を掛けた。 「恵美さん……とおっしゃいましたよね」 「はい」 「春子は……、春子は、笑っていましたか」 庭に桜の花びらが舞う。 道端には野花が可憐に咲き、雀が唄い、蝶が舞う。春の温かな香りが辺り一面を満たす。戦争の影などもう見当たらない、それはそれは穏やかな光景。 温かな春の日差しが恵美と誠二郎に降り注ぐ。 「――はい」 恵美は力いっぱい頷いた。               Fin.
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