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家族は皆、「万歳、万歳」と両手を挙げて夫の誠二郎(せいじろう)を讃(たた)える。私だけが、こっそり縁側に抜け出して耳を塞いでいた。
昭和。戦争の真っ只中。
夫がついに戦争に駆り出されることになり、私は最後の別れに、駅まで付き添うことになった。
道端には野花が可憐に咲き、雀が唄い、蝶が舞う。春の温かな香りが辺り一面を満たす。戦争の影も見当たらない、それはそれは美しい光景だった。
けれど、そんな光景が私の胸を余計に締め付けた。空はこんなにも青く澄んでいるというのに、花はこんなにも健気に咲いているというのに、鳥は自由に飛んでいるというのに、私はなぜ、こんなにも美しい日に夫を戦火のなかへ見送らなければならないのか。
ふと、夫の顔をうかがう。整った目鼻立ち。きりりと凛々しい目。それでいて優しい物腰。
ああ、私はそんな夫に、刃を握らせて「お国のために人を殺せ」と、どうして言えようか。
私は静かに腹をさする。
それを横目でみていた夫が、ぽつりと呟いた。
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