3月9日

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  「ナナシ兄ちゃん!行ってきます!」 「おう、行ってらっしゃい」 いつも通りに店を開け、朝食を食べ終わった妹たちを学校に送り出す。それが俺の日課だ。 おじさんから受け継いだこの料理店で、切り盛りするための儀式みたいなものだ。妹たちは元気で可愛いし、一日のやる気をもらっている。 「………お兄ちゃん、行ってくる」 「おう、行ってこい。誰かに挨拶されたらちゃんと返すんだぞ?」 「…………うん」 この大人しい子は三女の七海(ななみ)だ。もうすぐ小学五年生。読者家のインドア派である。人見知りが激しいが、慣れると可愛い女の子だ。 さっきの子は四女の空花(くうか)。七海とは対象的な性格で、スポーツ好きの活発なアウトドア派だ。七海と空花は双子である。対象的ではあるが、顔はそっくりだ。一卵性双生児で、能力は極分化している。 二人は仲良しだが、いつも一緒にいる訳ではない。やはり性格が真逆であるから、そりがあわない時もあるのだろう。しかし、息はぴったりなので、ケンカすることはあっても長引くことはない。仲良しなのはいいことだ。 店を開けたとはいえ、まだ人は入ってこない。時間と場所の問題だろう。朝は大抵掃除の時間だ。 という訳で、入り口の通りを竹箒で掃いていると、次女が現れた。 「ちゃんと働きなさいよこのニート」 「働いている人間をニートとは言わない」 「ふん、この社会のゴミ」 「たまにはお兄ちゃんと普通に話そうな」 「嫌よ気持ち悪い。それじゃ行ってくるわ」 「ああ、行ってらっさい」 スタスタと行ってしまう次女を見送る。うん、今日も元気みたいだな。
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