122人が本棚に入れています
本棚に追加
けど、私はそれを言わない。
ヨルの丸くて小さな手で、
その指で、無理矢理裂かれた。
「痛かったよ」
ヨルに聞こえるように、私は言った。
咎めてなんかいないのに、
後ろに壁があるのを忘れたみたいに、
ヨルは後退ろうとしている。
その目は怯えきっていた。
私に何をされるかわからなくて、
怖がっている。
何もしないよ。
「なんで逃げようとしてるの?」
四つん這いになって、
ヨルの前まで行く。
鼻と鼻がくっつくくらい、間近に。
彼女の顔はとてもキレイだ。
人間と言うか、人形に近い気がする。
黙って座っていたら、
本当に間違えてしまいそうなほど、
なんて言うか、人間味を通り越して、
生物味が無い。
唯一、目の下に常時あるクマだけが、
生き物感を出している。
その顔が、感情の渦でグチャグチャだ。
彼女自身、自分が何を考えてるか、
さっぱりわかってないんだろうな。
「きー…ちゃん」
どう形容していいかも悩む表情。
大きな瞳が、焦点を決められず、
泳ぎ回っている。
「なに?」
出来るだけ優しい声を出したつもりだ。
それなのに、
ヨルは涙を止められずにいる。
「ご…め、なさ…い。
ごめ…んな、さい。
ご、めん…な…さ、い」
別に謝らなくていいのにな。
でも可愛いから黙ってよう。
「ごめん、な、さい、ごめんな、さい、
ご、めんなさ、い、ごめ、んな、さい」
間近過ぎて、
どこを見ても私がいるのが、
今のヨルの精神上、
かなり良くないらしい。
壊れたように、謝罪を繰り返している。
これ以上、壊れるはず、無いでしょう?
だから、わかってても私はどかない。
「…いいよ」
小さく呟いて、
私はヨルの唇に、
自分のそれを重ねた。
最初のコメントを投稿しよう!