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身を動かせば背中を擦る。頭を上げる前に首が当たる。翼など開けよう筈がない。
光を見ずにどれだけ経ったか。
最早計算する気も起きない。今日もまた昨日と同じ日を過ごす。
ここは城。人間達が造った小さな城。…の地下。
我が身を動かす為の小さな隙間を残して丸くなった穴蔵だ。我が身は左巻きに凝り固まっている。
今日もまた昨日と同じ日を過ごす。
3、2、1、
ドサッ
地上と繋がる小さな穴から決まった時間に毎日肉が落ちてくる。日によって大きさはまちまちだ。ネズミから竜まで。
今日は腐りかけの豚位の大きさ。まぁまぁだな。
それを掴み息を吐く。息は赤く煌々と燃え上がり、手の中の肉を焼いていく。今日は腐りかけだから念入りに。
黒く焼きあがった肉を口に入れる。肉も骨も一緒に。骨を砕き、肉を食いちぎる。あっという間に肉は私の腹の中に収まった。…今日のは病気だったか。
ゲップが出た。
人間達は知っている。私の機嫌を損ねればどうなるかを。だから毎日を怯えて暮らす。毎日生かさず殺さず、私を生かす。
今日も今日とて昨日と変わらず、昨日のように目を覚ます。日など無くても時間は分かる。今日はちいとばかり寝過ぎたか。
3、2、1、
……ドサッ
今日は2秒の遅れ。という事は落とされる物が抵抗したという事。
「…うぅ」
やはり人間。久々じゃな。
ここは暗すぎて落ちてきた人間がよく見えん。起きようともがき動く人間の少し横に小さな息を吐く。
一瞬浮かび上がった姿は中々に強健な男だった。が、途端に。
「わぁぁあああああ!!!!」
消える炎の光を浴びて男は壁に向かって大疾走。あっさり壁に激突し後ろ向きに転がった。我の姿に驚きよったか。
「助けてくれぇ!!許してくれぇ!!」
壁に向かって叫びたてる男ぱ喧しい。彼が壁を叩く度にリズムの悪い振動が伝わってくる。
「これこれ人間」
「嫌だぁ殺されるぅ!!」
…相変わらず人間というのは話を聞かんのぅ。殺すとはまだ言っておらんじゃろうに。
「話を聞かんと喰ろうてしまうぞ」
「ひーー!!!!ひっ、ひっ、…へ?しゃ、喋れるのか?」
「さっきから喋っておろう」
まったく、愚かじゃのう。
我が喋れると気付いて少し落ち着いた人間が座る音がした。空気の震えと小さなカチカチという音は体が震えているのだろう。
「恐がる必要は無い。我の問いに答えればここから出してやろう」
口を開く度に出る小さな炎に、ぼんやりと恐怖の表情が浮かび上がる。
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