闇に巣喰う者

2/5
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
身を動かせば背中を擦る。頭を上げる前に首が当たる。翼など開けよう筈がない。 光を見ずにどれだけ経ったか。 最早計算する気も起きない。今日もまた昨日と同じ日を過ごす。 ここは城。人間達が造った小さな城。…の地下。 我が身を動かす為の小さな隙間を残して丸くなった穴蔵だ。我が身は左巻きに凝り固まっている。 今日もまた昨日と同じ日を過ごす。 3、2、1、 ドサッ 地上と繋がる小さな穴から決まった時間に毎日肉が落ちてくる。日によって大きさはまちまちだ。ネズミから竜まで。 今日は腐りかけの豚位の大きさ。まぁまぁだな。 それを掴み息を吐く。息は赤く煌々と燃え上がり、手の中の肉を焼いていく。今日は腐りかけだから念入りに。 黒く焼きあがった肉を口に入れる。肉も骨も一緒に。骨を砕き、肉を食いちぎる。あっという間に肉は私の腹の中に収まった。…今日のは病気だったか。 ゲップが出た。 人間達は知っている。私の機嫌を損ねればどうなるかを。だから毎日を怯えて暮らす。毎日生かさず殺さず、私を生かす。 今日も今日とて昨日と変わらず、昨日のように目を覚ます。日など無くても時間は分かる。今日はちいとばかり寝過ぎたか。 3、2、1、 ……ドサッ 今日は2秒の遅れ。という事は落とされる物が抵抗したという事。 「…うぅ」 やはり人間。久々じゃな。 ここは暗すぎて落ちてきた人間がよく見えん。起きようともがき動く人間の少し横に小さな息を吐く。 一瞬浮かび上がった姿は中々に強健な男だった。が、途端に。 「わぁぁあああああ!!!!」 消える炎の光を浴びて男は壁に向かって大疾走。あっさり壁に激突し後ろ向きに転がった。我の姿に驚きよったか。 「助けてくれぇ!!許してくれぇ!!」 壁に向かって叫びたてる男ぱ喧しい。彼が壁を叩く度にリズムの悪い振動が伝わってくる。 「これこれ人間」 「嫌だぁ殺されるぅ!!」 …相変わらず人間というのは話を聞かんのぅ。殺すとはまだ言っておらんじゃろうに。 「話を聞かんと喰ろうてしまうぞ」 「ひーー!!!!ひっ、ひっ、…へ?しゃ、喋れるのか?」 「さっきから喋っておろう」 まったく、愚かじゃのう。 我が喋れると気付いて少し落ち着いた人間が座る音がした。空気の震えと小さなカチカチという音は体が震えているのだろう。 「恐がる必要は無い。我の問いに答えればここから出してやろう」 口を開く度に出る小さな炎に、ぼんやりと恐怖の表情が浮かび上がる。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!