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大切に飼っていたかぶと虫の幼虫が、夏になり土から出てきたとき、小学校の納涼祭に参加していて見ることが出来なかった。
かぶと虫は、蓋の無い虫カゴから夜空へ木の蜜を吸いに飛び立って行ったっきり、帰ってこなかった。
彼女は、幼虫がタイミングを逃したから次の年の夏まで恥ずかしくて出てこられないのだと思い、一年間励まし続けた。
健気に思う郵便局員の父親が、神社の朝市で、かぶと虫を買ってきて、その年の夏にそっと彼女の虫カゴに入れた。
ようやく現れたかぶと虫に感激した彼女は、夏が終わるまで可愛がっていた。が、夏休みの最後の日に、かぶと虫はその短い一生を終えた。
彼女はお別れの歌を作り、厳粛な葬儀を行い、一人で喪にふした。
秋から冬にかけ、年末まで彼女は、なるべく黒い服を着て過ごした。
ショッピングセンターのパートタイムの仕事をしていた母は、同僚に気の毒がられ、娘を心配した。
変わった娘だと悩んでいたのは両親で、昼間家に居なかったため、もっぱら面倒はおじいちゃんの役目だった。
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