プロローグ

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おじいちゃんは、復員した元日本兵で、彼女にジャングルで生きる術(スベ)や、チェコ式の連発銃の撃ち方を教えた。 やがて、彼女は将来はスパイになることを夢見た。 秘密はあまり漏らしてはならない。と、自分に課したため、一人で遊ぶことが多かった。 裏山に隠れ家を作り、お菓子や果物の入った箱を隠して、いざというときのために備えていた。 ある年の夏に、秘密の隠れ家へ行くと、大切な食料の箱に、かぶと虫がたくさん集まっていた。 きっと、あの時のかぶと虫の子孫が、お礼を兼ねて集まったんだと、将来はスパイ活動に協力してねと約束した。 一度だけ、おじいちゃんを隠れ家に招待し、途中の商店で買ったカレーパンを二人で分け合って食べた。 おじいちゃんは、良くできましたと隠れ家を誉めてくれて、町からもらった功労勲章をくれた。 そんなおじいちゃんは、六年生の時に、この世を去った。 あの事は、秘密だ。と、息を引き取る間際に言った。 だが、その言葉の意味を、家族の誰もが理解できなかった。 彼女は、元気になったら一緒に食べようと三日前に買っておいたカレーパンを隠れ家で一人で食べた。
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