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「車一台に三人か。見てろよ、俺の車傷付けたこと目一杯反省させてやる」
ルームミラーにチラリと目をやり、千聖は呟いた。
未央は相変わらず後ろ向きでシートに正座し、背凭れを抱えるようにして黒い車を見ていた。
「向坂千聖さん何処へ行くの?」
「港だ」
「ちょっと向坂千聖さん、そんな人通りの少ない所へ行っちゃったらあいつらの思う壺なんじゃないの?」
「いいんだ」
「でも、向坂千聖さん――」
「ああ!もう千聖でいい!千聖って呼べ!」
「じゃあ千聖、なんで港なんかに――」
「とにかく俺に任せておけばいいんだ」
未央の問い掛けに、千聖はニヤッと笑った。
車は岸壁へ向かって走る。
トップスピードのまま、潮風の中を突き進む。
「シートベルトして深く腰掛けろ!」
弾かれたように前を向いて座りなおした未央が、ベルトをしてシートに身を沈める。
次の瞬間、千聖は岸壁の直前でハンドルを左へ切った。
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