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「助けてくれてありがとう。それと、車―― ごめんなさい。私のせいでこんなになっちゃって」
「もういいよ、成り行きだ。仕方ないさ」
「でも、大切にしてたんでしょ?」
「まあな」
「風通し良くなっちゃったね」
「確かにな」
夜の涼しい風が車の中を突き抜けて行く。
千聖は自分を抱き締めるようにしている未央にチラリと目をやった。
「寒いのか?」
「少し」
答えを聞いて上着を脱ぎ、片手でそれを未央に差し出す。
「ほら、これ着てろ」
「でも――」
「いいから。風引くと困るだろ?」
未央は今度は直に肯いた。
肩に掛けて袖を通す。
「暖かい。でも―― ちょっと煙草臭い」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
またしばらく黙り込んでから、未央が口を開いた。
「訊かないんですか?どうしてあんな事になったのか」
「訊いて欲しいのか?」
未央は答える代わりに首を横に振った。
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