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「だったら話さなくてもいいよ。人にはそれぞれ事情がある。俺は別にそんな事知る気はないし、知ったところでどうしてやる事もできないからな。自分の事だけで精いっぱいさ」
言葉を返しながら、千聖が自動販売機の前で車を停める。
「コーヒーでいいか?」
「あ……はい」
未央が答えると、千聖はホットコーヒーを二個買って車に戻り、一つを未央に渡した。
それからコーヒーを口に運びながら、両手で缶を包み込むようにした未央に目をやった。
「未央……ちゃん―― だっけ?」
「未央でいいです」
「じゃあ未央、家は何処だ?送って行くよ。―― そろそろ十二時だ。こんなに遅くなって家の人に叱られそうだな」
「家には誰もいないわ。私一人なの」
「え?」
予想外の返答に、千聖は思わず聞き返した。
「ママは私が小さい時に病気で死んだわ。パパは一等航海士で世界中を回ってるから、年に何日かしか帰って来ないし」
「そうか―― ごめん。悪いこと訊いちゃったな」
空になった缶をホルダーに置き、モザイクのようになったフロントガラスの向こうの月を見る。
「いいです別に。もう慣れてるから」
少し肩を竦めて微笑み、未央はコーヒーを口に運んだ。
それからまっすぐに前を向いている千聖に目をやって、ふと手を止めた。
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