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「あっ!」
途端に声を上げた未央が立ち上がり、響は悪戯をしようとしている時にタイミング悪く見付かってしまった子供のように「わっ!」と叫んで思わず飛び退いた。
「な、何?急に大声出して、驚くじゃん」
「ゴメン!時間だわ。ほら、もう十時」
そう言って響の腕時計を指さす。
「えっ―― 時間って……」
(なんだよ、腕時計見てただけかよ)
先程の期待はただの夢物語だった事と気付いて、響は溜め息をついた。
そんな響の気持ちも知らずに、未央が小さく肩を竦める。
「もう、帰らなくちゃ。パパが心配するから」
「パパって……おまえの父さん今、太平洋の上だろう?」
「大西洋よ」
「どっちだっていいじゃんそんな事」
「そうでもないわ。試験だったら×もらっちゃうもん」
「あのなぁ――」
言いかけた響をよそに未央は「じゃあ、私帰るから。駅、すぐそこだから送らなくていいわ。今日は楽しかったわ、ありがとう。それじゃまた学校でね」と、止める間も無く手を振って行ってしまった。
途端にヒュウッと音を立てて、風が吹いたような気がした。
「なんで……いつもこうなるんだよ!」
思わず足下のコーヒーの缶を蹴飛ばす。
空き缶はフワリと舞い上がるとすぐ傍の木の幹にぶつかり、そしてカツーンと音を立てて跳ね返って見事に響の頭に命中した。
「痛ぇえっっっ!」
響は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
…☆…
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