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「……ん」
「!」
女の子が何か呟くようにうめく。何と言ったのかはよく聞き取れなかった。ミツルは女の子の側に屈みこんだ。
「……意識があるのか?」
その問いに対する答えは無い。しかし、女の子はもう一度呟いた。今度はミツルに聞こえるほど、はっきりと。
「お兄……ちゃん」
「……」
ミツルは女の子の苦しそうな表情に思わずその頭を撫でた。心なしか、女の子の表情が柔らかくなる。
それきり女の子は何も呟かなくなった。
「……さて」
仕方が無いよな、と自分にいい聞かせるように言うミツル。
ミツルは女の子の体を慎重に持ち上げた。そしてその軽さに驚いた顔をする。
「……何食って生きてるんだか」
ゆっくり、ゆっくりと来た道を引き返す。
道は満月が、星が照らしてくれる。
夏の大三角の下を歩き続ける。
あっとミツルが声をあげた。
「流れ星」
小さな一筋の光。それは沢山の空の光の中では、埋もれてしまいそうなほど儚い光。
ミツルの背中の少女が小さく呟いた。意識が無いまま、本当に小さな声で。
「行かないで……」
「……」
ミツルの足が一瞬止まる。しかしすぐにまた、坂を下り始めた。
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