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考えてみれば、俺はそんなにこいつの本気で怒っている姿を見たことがない
だからこそ、その少ない場面を、強烈に鮮明に覚えている
一番最後に、こいつの怒りに触れたのはいつだったろうか…?
(……あ、…アレ、か)
そうだ、あれは大学一年の夏に出会って、つき合った彼女と別れた時だ
自分がまだガキくささの抜けないせいもあったんだろう、高校生の頃に出会った女の子とは違う、大人の雰囲気漂う大学の先輩に一目惚れして、俺は彼女に夢中だった
どうやら、こいつもその先輩を狙ってたらしいことを言ってたんだけど、それもいつものことだと聞き流して、俺はガキのせいもあり、その彼女と卒業したら結婚するんだと浮かれ上がっていた
だけど、やっぱり俺はまだガキくささも生意気さも抜け切れていなくて、自分がモテることに調子に乗って、次第に寄ってくる他の女の子に片っ端から手をつけて、結局その先輩とはすぐに別れてしまった
それでも、俺はそのことに対してそんなに落ち込むことも反省することもなくて
あ―あ、やっちまったよ、なんて言いながら、こいつに、またかよ―、なんて言って笑い飛ばしてもらおうと思ってたんだけど
予想に反して、ひどく怒られた
こんなに怒られる理由がわからなくて、ああ、こいつも好きだったんだっけ?なんて思いながら、その怒りの理由を探っていたんだけど
それよりも、こんなに怒っているのに、あまりに悲しそうな顔したこいつの心の奥底が見えなくて……
それからは、特定の誰かとつき合うことはしなくなった
どうしてか、それは自分でもよくわからないけれど
なぜなのか、こいつが怒っている本当の理由が、こいつも惚れていたであろう相手を俺が裏切ったという事実ではないことだけはわかっていた
(それもおかしな話なんだけど…)
その相手を思いやっての怒りならば、俺たちの関係はそこで終わっていたはずなんだ
だけど、違う
いつだって、あいつの感情のすべては、真っ直ぐに俺に向かっている
それだけは、自然と理解していた
だけど、見えない
感覚で理解し合えることがすべてだと心で思ってはいるのに
あいつの心の奥底で煮えたぎっている何かを、見ることがてきないことが寂しかった
すべてが矛盾で、曖昧だ
俺は誰よりあいつのことを知っているのに、知らないんだ
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