嵐と呼ぶには大袈裟だけど、青天の霹靂と言うには相応しく

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  「…俺が冗談でこんなこと言うと思ってんの?」 「……え?」 どのくらいの時間が経っていたのだろうか 俺は、こいつの視線に縛られたまま身動き一つ取ることもできずにいて その怒りに触れて、ふと、過去の記憶に思考を奪われていたのだけれど 沈黙を破ったこいつの言葉に、俺は反射的に顔を上げて目の前に意識を戻すと (…また、だ……) 先ほどまでの怒りの空気は、またガラリとべつの空気に変わっていて 話し方や表情は怒っているのに、その目だけが、悲しみを含んで俺を見つめていた 「なにが、冗談だと思うわけ?」 「や…、だから、その…」 「俺がゲイだってことが?」 「…―そう!それ!…んなわけねぇじゃん!」 「なんで?」 「なんでって…」 なんでって言われても困るじゃねぇかよ だから、意味わかんねぇんだもん そんな話聞いたこともねぇし、そんな素振り見せたこともねぇし だいたい、今まで一緒に女の子つかまえて散々遊んできたじゃん 一昨日だって、俺を残して女の子と消えてさ、俺超悔しかったもん だから、いきなりそんなこと言われたって信じられるわけねぇじゃん 「………、」 「…ま、俺も気づかれないようにしてたしね、仕方ないか、お前バカだし」 「…―なっ!?」 「だけど、本当だから、…引いた?」 「…―ッ、」 べつに、引いたりなんかはしてねぇよ それよりも、今はそれどころじゃなくて、なんかよくわかんねぇ こいつがゲイ?ってことは、男が好きってこと? (ぜんっぜん、意味わかんねぇ…) だってさ、長年つるんできた親友が実はゲイでしたとか、ありえなくねぇ? 俺はそっち系は興味もねぇし、全然自分に関係ねぇ奴なら、正直気持ち悪ぃな、なんて思ったりもするけど 今は、気持ち悪いとか、受け入れられるとかられないとかじゃなくて とにかく、信じられない 信じられるわけがない こんな長いこと友達やっててなんで…… (…ありえねぇ……) 知らなかった、っていう事実が、受け入れられないんだ  
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