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「先生。人が目の前にいるのにボーとするのは善くないですよ。」
まだ法的には子供とみなされた辺銀は、私の前で機嫌が悪そうに座っていた。
「よく、私が呆けているとわかったね。」
「それぐらいはわかりますよ。どんなに僕が目の前で動いていても、先生は全く動かないし、何も尋ねてこない。そういう時、先生は決まってぼーっとしています。」
「動いてた?」
「動きました。阿保のごとくバタバタと。」
「全く気付かなかった。」
いつものように彼の三食を持ってきて、彼と一緒に食事をして彼と食後に話をする。
私が日付感覚を失わないための唯一の決まり。
「えーと…何の話してたんだっけ。」
「昨日とても美しい本に出会ったんですって話ですよ。」
「あぁ、美しい本ね。美しい本。」
聞いてましたよ。えぇ、聞いてましたとも。
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