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「それとその、近所の青年に三食届けることと何の関係が?」
「その近所の子はね、辺銀康人というんだけど、あなたのマンションの同じ階に住んでいるんです。その子はここの常連なんですけどね、なんでここに来るんだと思います?」
「さぁ。子供と爺様の考えることはさっぱり。」
「話し相手がいないってここに来るんですよ。」
もう一度腰を持ち上げて後ろを見ると、まだあの看護師がいる。
彼女も余程暇なのだろうか。
「それで、僕がいいことを思いついたわけだ。」
「何がいいのか聞こうじゃないですか。」
「あなたが彼の部屋に三食、三回毎日行けばあなたの体調不良は解消される。そして一緒に食事をすれば辺銀君の話し相手が見つかる。と同時に辺銀君が探していた食事を作る人も見つかる。一石三鳥。ナイスアイディア。」
よぼよぼの年寄りの割にはナイスアイディアの発音が不自然に良い。
不自然だ。
「知らない人と一緒にご飯食べるなんて嫌です。それに話し相手なら、親でも友達でも見つければいいじゃないですか。私には関係ない。」
「探すことができれば、こんなところに来ませんよ。辺銀君はにとってはここに来るのも一苦労ですからね。」
「一苦労って…私と同じマンションなんでしょ。苦労なんて必要ない。」
「必要あるんですよ。辺銀君なら。それにあなた、小説家なんでしょう?」
診察の前に答えたアンケートの職業欄に正直に書いた、自分はきっと馬鹿なんだろう。
別に小説家と面を向かって言われたから赤面しているのではない。
自分が小説家と面を向かって言われたから赤面していることに、赤面しているのだ。
「まぁ。一応。」
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