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「………さん」
何処からか声がする……。
「………イアさん」
……イアさんって誰だよ。
「…グレイアさん!!いい加減起きないと生ゴミ食べさせますよ!!」
「五月蝿ぇなぁ………俺は昨日の仕事で眠ぃんだよぅ…もちっと寝かせてくれよ、フィゼル。」
グレイアと呼ばれた青年は顔に被せていた雑誌の位置を直す。
「だーめーでーすっ!!昨日の『昼』の仕事もそうやってサボって……締め切り近いんですよ!?」
彼女――フィゼルは一人焦った口調で忠告をするのだが、グレイアは相手にしようとしない。
「お前さぁ、『夜』の仕事がどれだけ大変か知ってんだろ?……魔力の使いすぎで…眠いんだよ…………………………………………………くぅ…すぴー……」
彼はついに喋りながら寝入ってしまった。
だが、そんな事をフィゼルは許さない。
やはり、彼女の頭のやかんが音を出して沸騰してしまう。
彼女はグレイアの耳元に口を近付け、思いっ切り大きな声で叫んだ。
「「「グレイアさんの馬鹿ぁぁぁああああああ」」」
かなりの大音量で部屋中に響く。
窓も若干震えて、まるで彼女に怯えているかのようだ。
それ程の大きな声で叫ばれてもグレイアが起きる気配は無い。
彼女は流石におかしいと思い、グレイアの周りにバリアがあるのかを探る。
しかし、そのようなものは一切見当たらない。
当の本人は気持ち良さそうに寝息を立てており、何も無かったかのように幸せそうに寝ている。
「もしかして…この雑誌?」
彼女は彼の顔に被せられた雑誌をゆっくりと取る。
そう。その雑誌はただの雑誌ではなかった。
彼の書くファンタジー小説に出て来る『遮音誌』だった。
どういう事か分からないのは当然だ。
『夜』の仕事の方等、同業者以外誰も知らないのが当然と言えるだろう。
この世界の小説家は、昼と夜で仕事が異なる。
昼は主に執筆活動を行い、夜は――決して厭らしい意味では無い――全く違う仕事をしている。
あまりパッと浮かばないだろうが、夜に彼等は各々の小説から人物や物等を召喚して、『話潰し』こと『フィクション・ブレイカー』と戦闘をしている。
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