第一話 小説家

2/4
前へ
/6ページ
次へ
「………さん」 何処からか声がする……。 「………イアさん」 ……イアさんって誰だよ。 「…グレイアさん!!いい加減起きないと生ゴミ食べさせますよ!!」 「五月蝿ぇなぁ………俺は昨日の仕事で眠ぃんだよぅ…もちっと寝かせてくれよ、フィゼル。」 グレイアと呼ばれた青年は顔に被せていた雑誌の位置を直す。 「だーめーでーすっ!!昨日の『昼』の仕事もそうやってサボって……締め切り近いんですよ!?」 彼女――フィゼルは一人焦った口調で忠告をするのだが、グレイアは相手にしようとしない。 「お前さぁ、『夜』の仕事がどれだけ大変か知ってんだろ?……魔力の使いすぎで…眠いんだよ…………………………………………………くぅ…すぴー……」 彼はついに喋りながら寝入ってしまった。 だが、そんな事をフィゼルは許さない。 やはり、彼女の頭のやかんが音を出して沸騰してしまう。 彼女はグレイアの耳元に口を近付け、思いっ切り大きな声で叫んだ。 「「「グレイアさんの馬鹿ぁぁぁああああああ」」」 かなりの大音量で部屋中に響く。 窓も若干震えて、まるで彼女に怯えているかのようだ。 それ程の大きな声で叫ばれてもグレイアが起きる気配は無い。 彼女は流石におかしいと思い、グレイアの周りにバリアがあるのかを探る。 しかし、そのようなものは一切見当たらない。 当の本人は気持ち良さそうに寝息を立てており、何も無かったかのように幸せそうに寝ている。 「もしかして…この雑誌?」 彼女は彼の顔に被せられた雑誌をゆっくりと取る。 そう。その雑誌はただの雑誌ではなかった。 彼の書くファンタジー小説に出て来る『遮音誌』だった。 どういう事か分からないのは当然だ。 『夜』の仕事の方等、同業者以外誰も知らないのが当然と言えるだろう。 この世界の小説家は、昼と夜で仕事が異なる。 昼は主に執筆活動を行い、夜は――決して厭らしい意味では無い――全く違う仕事をしている。 あまりパッと浮かばないだろうが、夜に彼等は各々の小説から人物や物等を召喚して、『話潰し』こと『フィクション・ブレイカー』と戦闘をしている。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加