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フィゼルは遮音誌を床へ投げすて、グレイアに再びけたたましく叫んだ。
「うわぁっ!!???」
フィゼルの声に跳ね起き、グレイアは耳を押さえながら、がたがたと椅子から滑り落ちる。
「何するんだよ!?」
「気楽に寝ているのがいけないんです」
「仕方ないだろ!!」
「私だって条件は一緒です」
フィゼルのきっぱりとした口調に黙り込むグレイア。
グレイアは目の前で仁王立ちしているフィゼルに逆らえそうもないので、渋々原稿の散らばった仕事机に向かった。
最近、スランプなんだよなぁ…
グレイアは溜め息をつくと、今まで自分が書いた小説を読み返す。
そうすることで、何か良い妙案が浮かぶ気がしたのだ。
しかし、案の定、天からアイディアという幸せは降って来なかった。
どうしよう、と悩んでいると、いきなりフィゼルが顔を近付け、俺の動揺する瞳を見つめては訳のわからない奇妙な微笑みを浮かべられる。
なんだか、スランプだってばれた気がして気持ちが落ち着かない。
だが、いくらその後発せられるであろう言葉を待っても、フィゼルは何も言わずにグレイアから離れ、ただ静かにソファーに居座るだけだった。
数時間後――
あれは、罠だったのだ。
何故、あの時の違和感を深く考えなかったのだろう。
あれからグレイアは、自作小説を読み返しながら、フィゼルが諦めるまで時間稼ぎをしようと、ちらちらと様子を窺っていた………のだが。
フィゼルはまるで予期していたかのように泊まる用意まで持ってきていたのだ。
恥ずかしい事に、気付いた頃には既にお天道様はお月様とバトンタッチをしていて、そんな時間では追い出す訳にもいかない。
嵌められた………。
急に襲い来る脱力感。
意地でも帰らないという風なフィゼル。
グレイアは様々な事に板挟みにされ、書類だらけの仕事机に突っ伏した。
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