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────風迅と名乗っていたあのガキが帰ってから半日。
時刻は既に正午を回り、村も規模そのものは小さいものの賑わいと慌ただしさを感じさせる。
まぁ、時刻が時刻だからな。
ただ1つだけ、いつもの風景から逸脱している点があるとすれば。
ギルドの支部員が数名、先程から村を走り回っていることか。
かくいう俺も、つい1時間前まで質問攻めに遭っていて、ようやく解放されたところだ。
……不要な誤解を招かないために先んじて言っておこう。
俺が地の文を標準語で話しているのは、何らかの形で関わっている不特定多数の人間に正しく言葉を伝えるためだ。
俺は広島産まれ大阪育ちで、方言にも独特な訛りが多々あるために会話が成り立たない可能性を考慮した上での判断だ。
誰だ、エセ関西人とか言った奴。
などと、俺──辰本龍は、架空の何かに訴えかけるという傍目には理解し得ない思考を凝らしている間も、ずっと考えていた。
『風迅』
『フウジン』
あのガキはそう名乗った。
それが自分の生前──元の世界で生きていた頃のアダ名だと。
ほんの少ししか言葉を聞くことは出来なかったが、あの態度だけで確信は出来た。
アイツは、俺を知っている。
と言うことは、俺自身もアイツと何らかの形で面識がある筈だが、サッパリ思い出せない。
元の世界で会っていたのか?
俺に年下の友達なんていないし、そもそも友達自体…………な。
「…………チッ」
別に気にしてるわけではないが、無性に腹が立った。
何故だ。
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