辰本龍の憂鬱

7/10
前へ
/714ページ
次へ
……俺は思った。 『説明するの面倒くせぇ』と。 説明放棄の意を眼差しで九十九に訴えかけると、九十九はウインクで返してきた。 交渉成立、でもムカつく。 「まず嶺子ちゃん、こっちの世界に飛ばされてから夢で『知らない誰かと会った』ことは?」 「えっ? えーと……」 暫く考えた後の、肯定の頷き。 3日も経たずに1度目の覚醒……かなり早いな。 「簡単に説明すると、その人物は『神様の代理人』や。 俺達みたいなイレギュラー全員に話し掛けて、突出した身体能力と固有の『能力』を与える。 覚醒は全部で3ステップあって、3度目の接触で『能力』を授かることが出来るんよ」 「神様の代理人(笑)」 笑うな。 真剣に話してる側で笑うな。 「どうやらその代理人は複数おるらしくて、何者なんかは多分誰も知らんことやと思う」 「へーそうですかーへー(笑)」 「……何でニヤニヤしてんの? まぁええわ、じゃあ次は具体的な『能力』の例やけど──」 そう言って、九十九は── 『俺達の視界から消えた』。 「──これが俺の能力。 『百面相[シークレット・フェイス]』」 「わぁ!? いつの間に!?」 1秒後、九十九は俺達の『背後』に立っていた。 「人間の視界の盲点、心の隙間、ありとあらゆる『死角』を一瞬で見抜いて、潜り込む。 これが、おにーさんの『能力』」 笑顔で話す九十九とは対称的に、コイツはまだ驚いている様子。 まぁ初見だと無理も無いか。 九十九が能力を駆使すれば、敵の背後を瞬時に取ることも、感情や記憶を覗くことも出来る。 これがあると簡単に心を読まれてしまうから、厄介極まりない。
/714ページ

最初のコメントを投稿しよう!

945人が本棚に入れています
本棚に追加