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動いたのは、辰本君だ。
ただ『動いた』と言うにはそれは……速すぎる。
瞬きの間に放たれた右フックは、上昇している私の動体視力を以てしても辛うじてしか捉えられない凄まじい拳速で。
それは直接、その右拳の破壊力の高さを物語っていた。
──しかし、私が見たものは。
辰本君の右フックが、ユッキーの左頬に触れる、その直前に。
僅かに口角を上げた、少年の顔。
バキィッ
「ぐほぁっ!!?」
直撃した。
避 け な い の か よ !!
何なんだよ、さっきの笑みは!?
無抵抗どころか1ミリも動かずに右フックだけで5メートルくらい吹っ飛びましたけど!?
何てこなたい……思わぬところにあのテリーマンを上回る噛ませ犬キャラが待っていたもんだ。
と言うか、ユッキー大丈夫かな?
モロに顔面に喰らってたけど。
カイリキーの爆裂パンチくらいの威力はあったぞ、あの右フック。
「おーい、ユッキー。
そんなダメージで大丈夫か?」
「大丈夫だ……問題ねぇ……」
思いがけず返し方がパーフェクトだったことに若干の感動を覚えた私だったが、地面にぐったり倒れ込んでいる今のユッキーを見ても大丈夫とは到底思えない。
……けどまぁ、喋るだけの元気はあるっぽいし!
ここはそっとしておこう。
「……犬飼、行くぞ」
「あー、はいはーい」
絶賛ノックアウト中のユッキーを完璧に放置して、関所に手続きをしに向かった鬼畜な辰本君。
歪みねぇな。
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