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噛み付くようにオッサンを睨んでいると、オッサンはハァと小さく溜め息を吐いた。
「嬢ちゃんよぉ……ちっとは現実ってもんを見たらどうだ?」
うっさいわ、お前は私の親か。
母親がニートに諭すようなことを異世界にまで持ち込むな。
どこぞの緑に言ってこい。
「若葉はなぁ、もうとっくの昔にイカれちまってんだよ」
「……どういうこと?」
「お前が友達だと思ってる若葉は『人間』じゃねぇ。
若葉って名称の『人形』だ。
それとも嬢ちゃんは、人形とでも友達になりてぇのか?」
あーイライラする。
さっきから何を言ってやがんだ、このヤクザ風オッサンが。
(※ミ○ノ風ドリアではない)
若葉が人間じゃなくて、人形?
意味が解らない。
何が言いたいのかサッパリだ。
「……自己の人格の損失」
その時、そうポツリと呟いたのは辰本君だった。
「辰本君、何それ……?」
「過去の体験が奥深くに根付きすぎて、本来の人格が保てなくなるケースがままある。
主な症状としては『記憶の欠落』『判断力の欠如』とかな」
『記憶の欠落』
『判断力の欠如』
それって……まさに若葉の現状と一致しているじゃないか。
「金髪の言う通りだ。
若葉には『自分』が無ぇ。
誰のことも思い出せねぇ、いつも他人の判断に凭れちまう。
それが若葉なんだよ、嬢ちゃん」
オッサンの言葉に耳を傾けている間も、私は若葉を見ていた。
今にも崩れてしまいそうな、その小さな姿に。
何が起こったんだろう……?
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