若葉

6/26
前へ
/714ページ
次へ
噛み付くようにオッサンを睨んでいると、オッサンはハァと小さく溜め息を吐いた。 「嬢ちゃんよぉ……ちっとは現実ってもんを見たらどうだ?」 うっさいわ、お前は私の親か。 母親がニートに諭すようなことを異世界にまで持ち込むな。 どこぞの緑に言ってこい。 「若葉はなぁ、もうとっくの昔にイカれちまってんだよ」 「……どういうこと?」 「お前が友達だと思ってる若葉は『人間』じゃねぇ。 若葉って名称の『人形』だ。 それとも嬢ちゃんは、人形とでも友達になりてぇのか?」 あーイライラする。 さっきから何を言ってやがんだ、このヤクザ風オッサンが。 (※ミ○ノ風ドリアではない) 若葉が人間じゃなくて、人形? 意味が解らない。 何が言いたいのかサッパリだ。 「……自己の人格の損失」 その時、そうポツリと呟いたのは辰本君だった。 「辰本君、何それ……?」 「過去の体験が奥深くに根付きすぎて、本来の人格が保てなくなるケースがままある。 主な症状としては『記憶の欠落』『判断力の欠如』とかな」 『記憶の欠落』 『判断力の欠如』 それって……まさに若葉の現状と一致しているじゃないか。 「金髪の言う通りだ。 若葉には『自分』が無ぇ。 誰のことも思い出せねぇ、いつも他人の判断に凭れちまう。 それが若葉なんだよ、嬢ちゃん」 オッサンの言葉に耳を傾けている間も、私は若葉を見ていた。 今にも崩れてしまいそうな、その小さな姿に。 何が起こったんだろう……?
/714ページ

最初のコメントを投稿しよう!

945人が本棚に入れています
本棚に追加