945人が本棚に入れています
本棚に追加
「発端は、7年も昔の話だ」
肩を震わせ涙を拭うこともせずにオッサンを睨んでいる若葉を見ていると、オッサンが語り出した。
私も辰本君も、オッサンへの警戒は緩めないまま、その語り口調に耳を傾けることにした。
ただ1人「止めて……」と何度も呟く若葉だけが、耳を塞いで膝を地に落としてしまった。
「ある平和な村に、1組の凶悪な盗賊団が襲い掛かった」
「傭兵を雇うほどの裕福さも無いその小さな村は、まともな抵抗も出来ないまま『死んだ』」
「盗賊団は徹底していた。
徹底的に村人を狩り尽くした。
徹底的に金品を貪り尽くした。
徹底的に報復の芽を摘んだ」
「ギルドの連中が駆け付けた時、もうそこは村じゃなかった。
ただの瓦礫と死体の塊だった。
優秀な人材も金目の物も殆ど無いその村が襲われるなんて、予想も出来なかったんだろうな。
盗賊団はその裏を突いたわけだ」
「ギルドが駆け付ける少し前に、盗賊団のリーダーはまだ息のある奴がいないかチェックしていた。
見付けたら殺すつもりだった」
「……ほんの一瞬だった。
ほんの一瞬、油断したその時に、小さな両腕が盗賊団のリーダーの腹にぶつかった」
「その子供が握っていた刃物は、リーダーの腹に傷を付けた。
この世界に『飛んで来て』初めて負わされた傷だった」
「その子供が、若葉だ」
最初のコメントを投稿しよう!