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若葉の顔に目を向ける。
数分前よりも更に崩れた、恐怖と悲壮がない交ぜになった表情。
昨日の笑顔だった若葉は……もう少しも見当たらない。
『どうして!?』
この問い掛けに若葉は、一言だけポツリと、消え入りそうな声量でポツリと、呟いた。
「………………コワイ」
『怖い』、と。
そう、確かに呟いた。
「怖いって……何が?」
「自分が傷付くことが、だ」
あぁーもうっ!
今まさに若葉から聞こうとしてるところをこのオッサンは!
割り込むなよ空気読めよ!
お前は大阪のオバチャンか!
と言ってやりたかったが、スルーされる率100%っぽいので沈黙。
なんかまだ情報を垂れ流しにしてくれてるし、しばらくオッサンの語りに付き合うとしよう。
「性犯罪の被害者とかに見られる一種の防衛本能だ。
『襲われたのは自分のせい』
『襲われた自分は汚れている』
そういう発想に至って外界を拒絶するケースは珍しくねぇ」
そこで話を区切ると、オッサンはギロリと若葉を睨み付けた。
それと同時に、眼光に気圧された若葉の瞳から再び涙が洩れた。
「若葉の狂気は、そういう類いの発想に酷似してる。
つまり……コイツはこんなことを考えてるってわけだ」
「『自分と親しくなった人は皆、パパやママみたいに殺される』」
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