若葉

11/26
前へ
/714ページ
次へ
若葉の顔に目を向ける。 数分前よりも更に崩れた、恐怖と悲壮がない交ぜになった表情。 昨日の笑顔だった若葉は……もう少しも見当たらない。 『どうして!?』 この問い掛けに若葉は、一言だけポツリと、消え入りそうな声量でポツリと、呟いた。 「………………コワイ」 『怖い』、と。 そう、確かに呟いた。 「怖いって……何が?」 「自分が傷付くことが、だ」 あぁーもうっ! 今まさに若葉から聞こうとしてるところをこのオッサンは! 割り込むなよ空気読めよ! お前は大阪のオバチャンか! と言ってやりたかったが、スルーされる率100%っぽいので沈黙。 なんかまだ情報を垂れ流しにしてくれてるし、しばらくオッサンの語りに付き合うとしよう。 「性犯罪の被害者とかに見られる一種の防衛本能だ。 『襲われたのは自分のせい』 『襲われた自分は汚れている』 そういう発想に至って外界を拒絶するケースは珍しくねぇ」 そこで話を区切ると、オッサンはギロリと若葉を睨み付けた。 それと同時に、眼光に気圧された若葉の瞳から再び涙が洩れた。 「若葉の狂気は、そういう類いの発想に酷似してる。 つまり……コイツはこんなことを考えてるってわけだ」 「『自分と親しくなった人は皆、パパやママみたいに殺される』」
/714ページ

最初のコメントを投稿しよう!

945人が本棚に入れています
本棚に追加