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声の発信源は……私でもオッサンでも、辰本君でもない。
と言うことは、つまり……?
「…………若葉?」
視線をオッサンから若葉に移すと……一瞬、背中に電流が走った。
『この時、狗猫に電流走る……』みたいなナレーションも流れた。
(※流れてません)
先程までとは違う、憤怒も悲壮も浮かび上がっていない瞳。
完全な無表情で、オッサンの顔を見据えている。
「若葉……テメェ」
オッサンが若葉に話し掛けるが、若葉はそれも無視。
ざっまぁ(笑)
次に若葉が取った行動はなんと、手に持っていた短刀を誰も居ないスペースに投げ捨てた。
与えられた絶好の復讐の機会を、自ら放棄した。
これには私と辰本君だけでなく、オッサンも驚いたようだ。
ちなみに若葉が短刀を投げ捨てた際に、壁にぶつかって跳ね返った短刀が私の右足から僅か数センチくらいの場所に突き刺さり、不覚にも失禁しそうになった。
数秒間の沈黙の後……若葉の口が動き始めた。
「……アタシ、イカれてるよ。
自分の名前すら忘れて、周りの人まで巻き込んじまった。
最低な卑怯者で……親不孝者だ」
言葉を紡ぐに連れて、若葉の瞳に光が宿っていく。
その光は、『復讐』や『絶望』のような濁ったものじゃなくて。
旅の途中の笑顔にも灯っていた、純粋な炎だった。
「アタシのことなら、好きなだけ罵っていいんだ……!
でもなぁ、アタシの『友達』まで馬鹿にするのは許さねぇ!!」
「っっ……!!?」
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